乳酸菌、腸内環境、ヨーグルトの基礎知識を専門外でもわかるように解説します

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最近、ヨーグルトの健康効果を発端とした『腸内フローラ』『腸内環境』『乳酸菌』が話題になっていますね。

腸内環境の改善に向けた活動は『菌活』なんて言われたりします。

これらの単語が色んなメディアで一人歩きしていますが…

皆さんはしっかりと説明できるでしょうか?

 

さて、僕は前の会社で乳酸菌を研究していました。 

乳酸菌を分析したり、うんこを調べたり、ヨーグルトと食物繊維を被験者に食べさせてみたり…

 

今は乳製品とは関係無い会社にいますが、毎日乳酸菌は摂取してますよ!

 

今回はヨーグルトの基礎から少し専門的なことまで…必要な知識だけをまとめました。

 

『乳製品』の魅力を伝えるべく、”食品メーカーの中の人”がそのエッセンスを簡単に解説していきます!

  

 

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1.腸内フローラとは

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『菌叢(きんそう)』って何?

腸内フローラ…日本語に直すと『腸内細菌叢』です。

『菌叢(きんそう)』と読みます。

(就活の研究発表で毎回説明させられてました…)

 

乳酸菌やビフィズス菌、大腸菌など…僕らの腸内に住んでいる微生物の集団を表します。

 

善玉菌と悪玉菌

腸内フローラには、乳酸菌やビフィズス菌など、我々の健康に貢献する『善玉菌』と呼ばれる微生物がいます。

 

反対に、『免疫機能を低下』させたり、『便秘や下痢』を引き起こす、場合によっては『発ガン性物質を生産』する『悪玉菌』もいます。

 

ただし、『悪玉菌』を名指しすることは難しい…

大腸菌の1種、O-157*1の様に、常時悪玉の菌もいますが、多くの菌は、食生活や体調によって『無害』にも『悪玉菌』にもなりうるからです。

この”気分屋”な菌たちは『日和見(ひよりみ)感染菌』といいますね。

 

『善玉菌』を増やすには?

腸内フローラの悪玉菌を減らし、『善玉菌優勢』にするには、『善玉菌を摂取』するか『善玉菌を増やす成分を摂取』することです。

次の章で詳しく説明します。

 

そして最も重要なのが睡眠運動により、体内の調子を整えておくこと。

微生物による腸内環境の改善は、『補助』的なものです。

 

食物繊維オリゴ糖乳酸菌を毎日摂取しても、運動不足で寝不足でストレスだらけでは、腸内環境も悪くなります。

 

そんな状態で、乳酸菌たちに腸内環境を改善しろ!と言っても無理な話ですよ。

 

腸は『免疫』のボス!

腸の機能は『消化』ですね。

 

そしてもう1つ重要な働きが『免疫』です。

 

免疫細胞の60〜70%は腸に存在しており、特に小腸の『パイエル板』は、腸管免疫の起点となる重要な器官です。

腸には食物とともに、様々な異物や微生物が入ってきます。

その異物を認識し…

 

『変な奴が来たぞ!!』

 

と免疫細胞に伝えるのが『パイエル板』です。

 

雑に簡単に図説しておきます。 

腸には絨毛(じゅうもう)という突起がありますが、一部絨毛がなく、平らな部分が小腸にあります。この領域がパイエル板ですね。

 

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『腸内環境を整え、病気に強くなる』というのは、『腸管の免疫応答を活性化する』ということです!

 

 

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2.ヨーグルトの機能

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プロバイオティクスとは?

まずは、『乳酸菌を食べよう!』におけるキーワード、『プロバイオティクス』について…

 

『プロバイオティクスは腸内腐敗、腸内有害細菌の機能を抑制、および有益な腸内細菌と生体の活性化あるいは補助を示す、特定の菌種によって生産された生菌製品である』と定義するのがよいと考える。

 消化管におけるプロバイオティクス・プレバイオティクスの機能、注目点と問題点より

 

プロバイオティクスとは、『健康維持に有用で、生きた微生物を含む食品(医薬品)』を指します。

ヨーグルト以外にも納豆キムチなどが該当しますね。

 

CMで有名な『新ビオフェルミンS』も『生きて腸まで届く』有用菌を生きたまま製剤化しています。

腸内フローラで善玉菌を優勢にする整腸剤ですね。

ちなみに僕はこの会社に新卒でお祈りされました。

 

しかし、この『生きて腸まで届く』には注意点が…

後述します。

 

プレバイオティクスって知ってる?

プロバイオティクスと似た言葉ですが、『プバイオティクス』も重要な概念です。

 

プレバイオティクスは、結腸内の有用菌の増殖を促進し、あるいは有害菌を抑制することによって、宿主の健康に有利に作用する難消化性成分で、フラクトオリゴ糖…(略)…などの難消化性オリゴ糖がこれに含まれる。

プレバイオティクスと腸内フローラより

 

すなわち、『腸内の善玉菌を増殖させる成分』がプレバイオティクスです。

『オリゴ糖を食べて健康に!』と謳っている製品なんかがプレバイオティクスに該当します。

 

ビフィズス菌は毎日取れ!『生きて腸まで届く』の注意点

さて…『生きて腸まで届く』ってヨーグルトが多いですね。

主にビフィズス菌を含む製品で謳われています。

生菌を摂取して腸内で活躍してもらおうって魂胆。

 

ここで一つ注意点。

 

基本的に、今の研究では…

 

生きた乳酸菌を摂取して、どの程度生きて腸まで届くかはわかりません。

 

では、どうやって『生きて腸まで届く』を証明するかというと…

 

  1. 試験対象の菌がいない、少ない被験者を選ぶ
  2. うんこの菌を調べる
  3. 試験対象の菌(が入ったヨーグルトなど)をしばらく食べてもらう
  4. うんこの菌を調べる
  5. 試験対象の菌がいた、または明らかに増えた

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というわけです。

 

また、『生きて腸まで届く』『腸で定着する』とは全く別の話。

 

生きて腸まで届いても、大部分は普通にウンコになります。

一部は定着してくれますが…ごくわずか。

 

『生きて腸まで届く』『継続的に摂取することで初めて効果が生まれる』と考えてください。

 

 

腸内環境の改善だけじゃない!乳酸菌の主な健康効果 

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これは僕は学生時代に撮影した乳酸菌。撮影へったくそ!

 

概念については説明したので、ヨーグルト等に含まれる乳酸菌の健康効果を簡単にまとめます。

 

【酸生成による悪玉菌の不活化】

基本的に、病原性大腸菌黄色ブドウ球菌などの悪玉菌は『酸に弱い』です。

乳酸菌はその名の通り、乳酸(+その他の有機酸)を生産しますので、乳酸菌が優勢になると、腸内が酸性に傾きます。

腸内が酸性寄りになると、酸に弱い悪玉菌が劣勢になり、乳酸菌・ビフィズス菌等の善玉菌が優勢になる腸内フローラが形成されやすくなります。

 

これが、ヨーグルトが腸内フローラを整えるという主な要因です。

 

おばあちゃん:『酸っぱいものは身体に良いのじゃ!』

 

の由来もここからきているかもしれません。

 

【便秘の解消】

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また、腸内が酸性に傾くと、腸の動き『蠕動運動(ぜんどううんどう)』が活発化します。

腸がウネウネ動くことによって、消化物はウンコになり、まで運ばれます。

ですが、腸の機能が低下している場合、この蠕動運動が鈍くなり、便秘の原因にもなります。

 

腸内フローラを整えることで、腸の運動が活発化し、便通の改善にも繋がります。

 

詳しくは食物繊維と便秘解消についての記事で解説しています。

 

あ、ちなみにですが、ヨーグルトと『下痢』はあまり相性が良くありません。

牛乳でお腹を下す『乳糖不耐症』の人が、

 

『ヨーグルトは乳糖が分解されているから大丈夫!』

 

とモリモリ食べてたりしますが、特殊な処理を施さなければ、ヨーグルトには乳糖の大部分は残ったままです。

(牛乳よりはマシ)

『お腹に良い』のは間違いないですが、下痢と便秘のメカニズムは全く違うので注意を。

詳細は…長くなるのでまたの機会に。

 

【文献】Effects of Lactobacillus Beverage Containing Galactosylsucrose on Defecation in Healthy Female Students with Constipation Tendenciesなど

 

【免疫機能の活性化】

腸内環境の改善だけではなく、乳酸菌は体の健康に大きく貢献します。

乳酸菌が生産する『ペプチド』や、乳酸菌の『細胞壁』には、腸内の免疫細胞が認識すると、免疫機能が向上する『免疫賦活効果』が認められています。

 

ちなみに、僕の研究テーマはこの分野でした。

 

【その他の有用物質の生産】

乳酸菌の生産する『多糖類』は、免疫賦活効果に加え、『抗炎症作用』など、様々な健康効果を持ちます。

また、他の善玉菌と生産物質の交換を行い、お互いの生育を促進する『微生物同士の共生』が見られる場合もあります。

 

これ以外にも、様々な健康効果を持つ成分を生産する事が解明されてきていますよ!

 

【文献】The role of probiotic lactic acid bacteria and bifidobacteria in the prevention and treatment of inflammatory bowel disease and other related diseases: a systematic review of randomized human clinical trials.など

 

【乳酸菌は死んでも働く!!】

これで乳酸菌の機能は最後!

既述の通り、『細胞壁』など乳酸菌を構成する物質自体が、健康効果を持つ事も証明されています。

 

乳酸菌が生きて腸まで届かなくても、十分健康効果は期待できます。

 

実際に乳酸菌成分を含むサプリメントも販売されていますね。

なおヤクルトの研究職も最終でお祈りされました。

実は、この『生きて腸まで届かなくても』という部分が、僕が一番伝えたい部分でもあります。

生菌を取る事で、直接腸内フローラを改善することは、かなり難しいんですよ。

まずは、普段の食生活や運動で、体全体を整えることが、腸内環境改善への最短距離です。

 

その状態でヨーグルト等の発酵食品を食べると、非常に効果的なんです。

 

例え菌が胃酸で死んでしまっても!

 

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おわりに

腸内環境、腸内フローラ…ここ近年話題になっていますね。

(元)研究者としては話題が一人歩きしているな…という印象も…

 

健康バカ健康維持に積極的な人の中には、乳酸菌が良い!と言えば乳酸菌だけひたすら食べたり、ナントカ油が良い!と聞けばその油だけ食べたり…

そう言いながら、高脂肪の食べ物をモリモリ食べてたり…

 

そうならないように、日々の生活から見直して、適切な食生活を送りたいですねー。

なんか綺麗に〆られたっぽいぞ?

 

とりあえず、みんなも毎朝ヨーグルト食べようぜ!

 

【その他の参考資料】

腸内菌叢とはー理化学研究所

乳酸菌ラボ(フジッコ株式会社)

サントリー健康情報レポートなど

 

みるおか

【食品科学のおすすめ記事!】

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*1:細胞毒性のベロ毒素を生産し、下痢や腸管の出血を引き起こす。

コメント

  1. doremi-dressy より:

    >特殊な処理を施さなければ、ヨーグルトには乳糖の大部分は残ったまま
    知らなかったわ!
    わたしもちょうど先日「乳酸菌」ネタの記事を書きましたが、ど素人っぷりがあらわだわ。勉強になりました!

  2. salawab より:

    (id:doremi-dressy)さんコメントありがとうございます。
    牛乳に含まれる乳糖は4〜5%、乳酸菌を発酵させても(一般的には)3%くらいは分解されずに残るのです。
    乳酸菌自体が乳糖を分解できますし、牛乳アウトな人がヨーグルトOKな場合はありますが、『牛乳よりは下しにくい』だけ…
    ただ、下痢の原因が”乳糖不耐症”以外にある場合は腸内環境の改善で、良い方向に動くこともあると思います。

  3. doremi-dressy より:

    あら!早速とっても詳しくありがとうございます。
    研究をされていてとのことで、おさすがです。また記事楽しみにしてます~!

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