消防団の闇は深い。現役消防団員が考える問題点とは。

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『消防団』をご存知ですか?
消防士とは異なり、民間で形成される消防団体です。都心部ではあまり馴染みがないかもしれませんが、皆さんが住んでいる地域にも消防団が組織されています。

実は僕も消防団員なのです!
以前、茨城県で研究者をしていた時にも所属していたのですが…。
転職してから消防団になるつもりは全く無かったのですが、職場の先輩(消防団)にうっかり元消防団であることを話したら熱烈な勧誘を受けまして、晴れて消防団員となりました(白目)

さて、昨今は火災だけでなく、大地震等の災害も話題になり、消防団の活動がピックアップされる機会も多いです。
田舎に移住するにあたって『絶対に入ってはいけない』組織と言われることもありますね。

…否定はしない!

今回は消防団の基礎知識や問題点等、現役団員の立場から伝えていきたいと思います。

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消防団の仕事とは

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消防団の立場と業務内容

火事や災害のために常勤している消防士さん達と違い、消防団は普段は別の生業を持ちます。
立場としては地方公務員(非常勤特別職)ですが、公務員は名前だけでボランティアの団体に近いです。

消防組織が充実している都市部では消防団の負荷が少ないですが、その反面、人口が減少し高齢化が進む田舎では、消防組織だけでは活動が間に合わず、災害対応を消防団に依存している地域も少なくありません。

消防団が担う業務は火災の消火や、災害時の救助・救命活動防災の啓蒙活動等です。
僕は地方といってもそれなりに人口の多い住宅街に住んでおり、消防団員もある程度確保されています。火事の消火や災害救助は未経験で、パトロールに行く程度です。
どこかで災害があると消防署からメールが届き、担当範囲内*1であればすぐ団長に連絡して出動するか決定します。

ちなみに僕は免許がオートマ限定なので、基本マニュアルの消防車をそもそも運転できません。いつも助手席…。

【参考】消防団 オフィシャルウェブサイト

消防団の活動と企業

消防団には日中のイベントや緊急出動もあるため、入団する場合は所属企業の許可が必要だったり、入団後に消防団から通達が行く場合もあります。消防庁の規則の他に市町村毎に条例があります。
僕が住む地域では、消防団がある程度根付いているので、会社の理解もあります。基本的に勤務中は出動しませんが、別の消防団に所属している人は勤務中に緊急出動することもあります。
中には『消防より仕事しろよ…』と陰口を叩かれる人も…?

人員が少なく消防団に依存する地域ほど、団員の通常勤務に影響を与え、会社の立場が悪くなるといったジレンマが問題の1つです。

 

消防団の報酬

総務省消防庁、報酬払わない消防団公表 待遇改善促す :日本経済新聞

ボランティアの様な組織と書きましたが、災害時に出動した時などは報酬が発生します。市町村から消防団に手当てが支給され、例えば出動あたりの報酬は7,000円/人と定められています。しかし、実際にこの額が支払われている消防団は多くありません。

上記リンクの記事では、

国は消防団員1人当たり年額報酬3万6500円、1回の出動当たり7千円の手当を支払うとして、自治体に渡す地方交付税の額を算定している。ただ実際の支給額は自治体が条例で定めることになっており、平均の年額報酬が2万5064円(2010年度)、1回の出動手当が2562円(11年4月)と算定基準を大幅に下回っていた。

と書いてあります。
報酬体系は市町村、消防団毎に異なるので説明が難しいですが…

なぜこのような事が起こるのかというと、例えば『委任状』というシステムがあります。
消防団は会社員ではないですが、既述の通り地方公務員(非常勤特別職)になります。消防車に乗れる権利を持ち、災害救助に携わる特殊な業務なため、入団に当たって様々な書類を提出します。
消防団は営利団体ではないので、自治体からの手当てで活動費を賄います。ガソリン代や機器の維持費、飲食費等もその活動費から捻出します。

例えば、懇親会費等が手当てから天引きされるという委任状を作成し、団員が承認すれば、出動手当てから各種活動費が引かれ、”手取り”が減るといったパターンが考えられます。

僕が所属している消防団は報酬体系がしっかりしているので、活動に応じた報酬を頂いています。ただ、別の消防団の人と報酬の話はできないですね。 こう見ると会社員と似ています…。

消防団のイベント

これも各消防団によって異なるのですが、メジャーだと思われるスケジュールを組んでみます。僕の独断で組んだ、仮のスケジュールです。

【1月】出初式(全員)

どの消防団員もほぼ参加必須です。

地域の消防団員が集まり、自治体の偉い人(議員さんとか)の前で消防操法(後述)や小隊訓練を公開します。小隊訓練は簡単に言うと行進ですね。団長の掛け声で数十〜数百名の団員が同じ動きで行進します。動画もたくさんあります。

ちなみに、僕は東北地方に住んでいるので、豪雪の中数時間立ちっぱなしで死にそうになることもあります(白目)

【4月】入団式

新人の消防団員の入団式があります。自治体によって異なり、僕がいる消防団ではありませんでした。

【6月or10月】消防操法大会

春か秋に行われることが多いです。詳しく後述しますが、消防車に乗降して消火するまでのデモンストレーションです。地方大会から全国大会まであり、全国1位はまるでロボットです…この消防操法大会に向けた練習こそ”消防団には絶対入るな”の原因かも…?

【年3〜4回】地域パトロール

消防車に乗って防災パトロールをします。1時間程度、人員2名以上でサイレンとアナウンスを鳴らしながら消防車を走らせます。

決まったイベントはこの程度です。それ以外にも地域イベントで消火のデモンストレーションを行います。飲み会や団員旅行等のイベントは消防団毎に異なるので割愛します。僕が所属している消防団に旅行は無いですし、飲み会は忘年会等最低限です。田舎の方では飲み会ばかりの所もあるそうですが…。

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消防団の現状

消防団員の減少

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引用:消防団データ集 | 消防団 消防職団員数の推移

上のグラフは消防職員、いわゆる専任の消防士さんです。微増傾向ですね。
対して下が消防団員。きれいに年々減少しています。昭和40年には130万人以上となっていました。この原因について解説していきます。

田舎の過疎化と、若者に通じない『風習』

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引用:消防団データ集 | 消防団 消防団員の年齢構成比率の推移

簡単に言うと消防団も高齢化が著しいのです。
単純に都心への人口集中に伴う地方の高齢化も大きな要因なのですが、そもそも若者が入りたがらない、貧乏くじ扱いされているのが現状です。

入団拒否や退団の理由は、『仕事と両立できない』『プライベートを大事にしたい』など誰でも思い浮かぶようなことです。
昔は消防団が地域に根ざした組織となっていましたが、現代は若者も外に出ていきますし、地域の”風習”は通用しなくなっています。

実際に時期によってかなりの時間拘束されますし、イベントもほぼ強制参加であることが多いです。高齢化=古い人間が多く、イベントの制約を減らす等の柔軟な対策が打てていない消防団が多いですね。

消防団は旅行とコンパニオン三昧?

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消防団の悪評を検索すると、

『手当てを使ってコンパニオンを呼んで飲み会』

『団員の旅行は強制参加…』

みたいな話がよく書かれています。

僕の所属している消防団は問題ないはず…
というか僕の消防団がかなり堅い人揃いなので、懇親旅行も無いですし、新歓も分団の人だけでチェーン居酒屋で楽しむ程度です…。

イベントへの強制力が強いのは事実ですが、自治体からの手当ても年々減少しており、今はもうこんなバブリーな消防団は少ないと思います。
ただ、あくまでもある程度の都市部の話で、農村部の消防団ではこのような古い風習が消えていない所もあります。

ホワイト消防団とブラック消防団

さて、僕の消防団は報酬もきちんと支払われますし、入退団も自由です。数十年所属するベテランもいますが、平均3〜10年のサイクルで人が入れ替わりますね。
専任消防士の数も足りているので、緊急出動も少ないです。
飲み会はまぁワイワイやりますが体育会系の雰囲気は無いですね。
残業が少ない仕事に就いているのもありますが、仕事との両立も余裕です。

しかし、これは物凄く恵まれています。

超ホワイト消防団です。

記述の通り、報酬体系が曖昧な消防団はまだまだ多いですし、懐事情が厳しかったり、住民への勧誘が激しい消防団も少なくありません。
過疎化が進む農村部の消防団の人に一度、

『辞めないんですか?』

と聞いたら、

『辞められねぇ…消防団辞めるなんてヤ◯ザの足抜けみたいなもんだぁ…』

と答えられたこともあります…。

消防団の世界にも、ホワイトとブラックが存在するのです。

消防操法訓練はほぼ部活!

さて、 消防団のイベントの項にも書いた『消防操法訓練』ですが、結構キツイっす。僕は元々大学までスポーツをやっていましたし、仕事後のジム感覚で練習していますが、操法訓練が嫌だと言って入団しない人も数多くいます。
消防操法の全国1位の動画がこちら。

わからないと思いますが、僕的には『第一線48秒速すぎワロタww』ってレベルです。
大会前になると、選手は2週間平日毎日2時間練習します。僕は残業が少ないですが、さすがに毎日定時では上がれないので、仕事の後2時間練習した後に実験しに会社へ戻ることもあります。
数キロのホースを担いで全力疾走して、ポンプ車からの強烈な水圧で水を上げ、ダッシュで戻って来る。これをロボットのような正確性でやるのは見かけより大変ですよ!
全国に出るようなガチの消防団はもっと力を入れて練習します。もはや体育会の練習です。
『消火方法を覚えるため』が大義名分ですが、伝統的な大会になっている現状もあります。

各消防団が人員の確保に悩み『隔年開催にする等、消防操法の負担を軽減できないか』等の案も出るのですが…

『ウチらの代で変えるわけには…』

とベテランさんが決断できない状況になっている消防団も多いです。

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おわりに:消防団の維持は必要なのか

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消防団は災害時に救命活動を行う重要な組織です。
しかし、地元民の馴れ合いの場であったり、『風習』による団員の負担も多く、自ら団員を遠ざけてしまっている現状もあります。
僕の様な外様の人間がユルリと活動しているのが例外的で、

『お前みたいに引っ越してきた人間が入団して普通に馴染んでるのは珍しすぎるww』

と言われたこともあります。喜ぶべきか…?苦笑
消防団の活動を今後も維持していくためには、消防団員の負担を軽減し、住民が気軽に入隊団できるよう、整備していくことが急務です。
企業活動と同じです。拘束時間が取られ、責任のある業務であるからこそ、時代に応じた柔軟な組織運営が必要だと自治体・消防団が自覚すべきですね。

果たして…

*1:市町村ごとに消防”団”が1つ編成され、そこから分団→部→班に細かく分かれる。活動は基本的に班単位で行う。